App Annieが2018年のアプリ市場を予測。拡張現実、動画ストリーミング、小売、金融などさまざまな視点から分析します。
2018年、AppleのiOS App StoreとGoogle Play(旧Android Market)が10周年を迎えます。両ストアが誕生して以来、モバイルアプリは、驚異的なスピードで社会に大きな影響を与え続けています。この10年で、アプリ市場では様々な面で成熟が進みました。
- 2017年10月末現在、iOS App StoreとGoogle Playで提供されているアプリは、それぞれ200万本と350万本を超えています。さらに、いまも新しいアプリがどんどんリリースされています。2017年10月の1カ月間にリリースされた新作アプリは、iOS App Storeで約5万本、Google Playで15万本超を数えました。
- 成熟市場では、平均的なユーザーは1日に2時間をアプリに費やしています。1年間のうちの約1カ月をアプリで費やしているということになります。
- 2017年にはiOS App StoreとGoogle Playを合わせた消費支出が、40を超える国でそれぞれ1億ドルを超えるとみられます。
- アプリは現在、小売、銀行、旅行、ファストフード、消費者向けパッケージ商品(CPG)、メディアとエンターテインメントなど、ほぼすべての業界で重要な役割を果たしています。
こうした成熟化が最も顕著に現れるのは、モバイルアプリの進化によって影響される人々の日常生活です。消費者のアプリに対する期待が急激に高まっており、その重要な要素の1つが利便性です。App Annieは2018年の予測の多くで利便性を根拠として挙げ、重要なテーマとして捉えています。
アプリストア全体の消費者総支出額が、全世界で1000億ドルを突破
世界中でアプリ市場の成長が続くなか、App Annieがアプリ市場の成熟モデルで説明したように、アプリのマネタイズが拡大を続けています。このトレンドは2018年も継続するでしょう。2018年には、世界の全モバイルアプリストアを合計した消費支出が前年比でおよそ30%増加し、1100億ドルを突破する見込です。支出の大半を占めるのは、やはりゲームです。しかし、ゲーム以外のアプリは2018年、支出に占める割合が増加し、増加ペースがゲームアプリを上回るでしょう。この変化は、主にサブスクリプションによってもたらされているもので、アプリ市場の成熟化が進み、アプリがユーザーに提供する価値が高まっていることを強く示しています。
注目すべき市場は、中国、インド、ブラジル
中国は、過去数年間と同じように、2018年もアプリストアの消費支出にとって重要な市場となるでしょう。中国の成長率が世界の他の地域を大きく上回る見込みです。中国がiOS App Storeの消費支出で最大の市場であることを考えると、これは驚異的でしょう。
2018年にAndroidフォンの利用時間を牽引するのは、インドやブラジルを始めとする新興市場です。インドとブラジルは、2017年10月31日までの1年間で利用時間が前年同期から大きく伸び、インドは50%近く、ブラジルは30%近くの増加になっています。インドに関しては、Google Playのダウンロード数が大きく増加したのは、Reliance Jioが2016年9月に格安の4G通信サービスをローンチしたことがきっかけです。一方、ブラジルはインドより市場の成熟が進んでおり、ダウンロード数が増える段階の先に進みつつありますが、ブラジルはモバイルファーストの国であり、まだ大きな成長の余地が残されています。どちらの国も、かなりの人口がまだスマートフォンを所有していません。スマートフォンの普及率が増え続ければ、総利用時間は今後さらに長くなり、その結果、モバイルコマースの支出額はますます増加するでしょう。
AppleとGoogleによるキュレーションで、独立系パブリッシャーのチャンスが拡大
冒頭で述べたように、ストアには膨大な数のアプリがあり、その数は堅調なペースで増え続けています。このようにアプリが増えると、アプリで消費者の生活が豊かになる幅が広がるという恩恵がある一方で、消費者のアプリ探しが難しくなるという課題も生じます。
これに対処するため、AppleとGoogleは2017年6月、iOS App StoreとGoogle Playでアプリのキュレーションと編集コンテンツを刷新することを発表しました。このアップデートによって、2018年には、特に”暇つぶし”に使われるアプリに影響があるでしょう。このようなアプリは、エンターテインメントを中心としたものが多く、何気なくアプリストアを眺めている人々にリーチすることがいちばん多いのです。これに対し、「生活に不可欠な」サービス(フードデリバリーや決済など)は、特定のニーズを持つユーザーが、口コミを調べたり自発的に検索をしたりしてダウンロードする可能性がはるかに高いアプリです。
さらに、キュレーションや編集コンテンツは、これまでまったく知られることがなかったり、ほとんど知られていなかったりした独立系パブリッシャーのアプリを紹介できる強力なプラットフォームを、AppleとGoogleにもたらします。暇つぶしのアプリはIAPでマネタイズすることが多いため、アプリが見つかりやすくなることで、IAPの収益が全体的に増え、さらにはその恩恵がより幅広いパブリッシャーにもたらされるようになるでしょう。
「すぐに知りたい」という消費者ニーズが拡張現実(AR)の導入を後押し
Pokémon GOやSnapchatはARに対する消費者の関心を高めましたが、こうしたARの用途は、ARの持つさまざまな可能性の始まりに過ぎません。2018年には、ARが大きな潜在能力を発揮するための重要な一歩を踏み出すでしょう。この動きにつなげる基礎を作ったのは、Facebook、Google、Appleといった企業で、各社、2017年の開発者向けカンファレンスで、さまざまなAR関連のプロジェクトを発表しました。ほかに、Alibaba、Baidu、Tencentといった中国企業もARプロジェクトを発表しています。こうした取り組みによって、パブリッシャーがARアプリの開発をより簡単にスピーディにできるようになり、また、消費者の関心がさらに高まることで、ARの導入はさらに加速することでしょう。実際、「拡張現実」という検索キーワードでアプリストアの上位にランクインするiPhoneアプリのダウンロード数は、2017年9月以来、大きく伸びています。
2017年9月以降、iPhoneでは、ARアプリのダウンロード数が大きく増加しました。これは、新しいAR関連アプリが増えたこと、および既存のアプリにAR機能が追加されたことが要因です。
特にゲームでは、Nianticの次の作品Harry Potter: Wizards Uniteが、Pokémon GOでの成功をさらに拡大し、ARゲームを中心にさらなる話題を巻き起こすでしょう。
一方、ARのチャンスを最初に手にしようと押し寄せるパブリッシャーは増え続けており、2018年には、現実世界の対象物に情報を重ねて表示できるGoogle TranslateやMLB.com At Batなど、「すぐに知りたい」ニーズに特化したアプリが最も幅広くユーザーの関心を引き寄せると予測しています。このような幅広いユーザーにアピールするちょっとしたニーズを入り口にして、エンターテインメント(ゲームや写真フィルター)分野を超えて多くの人がARを試し、やがて習慣的に利用するようになるでしょう。
断片化が進む動画ストリーミング市場
アプリは、動画コンテンツの視聴方法を大きく変化させています。2017年は、ユーザーが引き続き増加し、オリジナルのスタジオコンテンツが批評家から高い評価を得るなど、動画ストリーミングサービスにとってまたしても素晴らしい1年となりました。動画ストリーミングアプリは、2017年10月31日までの1年間に、iOSとGoogle Playの両ストアの「エンターテインメント」カテゴリーで、全世界の消費者支出が大幅に増加。前年同期と比べてiOSが85%以上、Google Playが70%以上増え、どちらも記録的な水準に達しました。
ただ、2018年には1つの転換点を迎え、市場が断片化し始めることが予想されます。この分野の成功によって、コンテンツの所有者や配信者の取り組みがさらに活発化し、すでに複雑な状況がさらに複雑化するためです。実際に、2017年10月現在、主要な動画ストリーミングアプリを少なくとも1つインストールしている米国のiPhoneの動画ストリーミングユーザーの中で、主要な動画ストリーミングアプリを4本以上インストールしている人の割合は、前年同期より30%以上増加しています。つまり、動画ストリーミング人気とそれに伴う選択肢の増加によって、複数のアプリをインストールするユーザーが増えています。
主要な動画ストリーミングアプリを4つ以上インストールしているiPhone動画ストリーミングユーザーの割合が増えており、
市場の断片化が進んでいることがわかります。
エンターテインメント業界やアプリ経済で名をはせている企業の中には、Netflix、Apple、Google、Facebook、Snap、Disneyのように、シェア拡大を目指した大規模な計画を明らかにしているところもあります。具体的には、オリジナルコンテンツへの投資や、新しい動画ストリーミングサービスの開始といった計画です。市場全体としては、ユーザーがますますモバイルアプリでコンテンツを視聴するようになるため、収益においてもエンゲージメントにおいても着実な成長を続けるでしょう。ただし、市場のダイナミクスは、断片化によって徐々に損なわれていくことになります。この魅力的なチャンスをものにしようと、多くのプレイヤーが参入するためです。こうした相次ぐ参入によって、消費者は、あまりにも多い選択肢の中から、時間とお金を費やすサービスを選ぶことを余儀なくされます。その結果、一部のプレイヤーは競争の激しいこの市場から締め出されて、利益の確保に苦労することになり、数年をかけてサービスの統合が進んでいくことでしょう。
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モバイルが小売業のカスタマージャーニーの中心へと躍進
モバイルは近年、小売カスタマージャーニーにおいてますます中心的な役割を担うようになっています。主に実店舗内で買い物をする際の調査ツール(価格、商品情報、レビューなど)からスタートしたモバイルは、今やそれ自体でショッピングを完結できるチャネルになりました。加えて、従来の実店舗型の小売業者が、カスタマージャーニーをさらに発展させるためにアプリを採用。今や、買い物客によるモバイルアプリへのエンゲージメントは非常に高くなっています。2017年10月31日までの1年間に、Androidフォンユーザーがショッピングアプリを利用した時間は、米国とイギリスで月平均1時間近く、韓国で約1時間30分に達しました。さらに、2017年のブラックフライデーには、米国でモバイルによる購入額が初めて10億ドルに到達。2017年の「独身の日」には、Alibabaが達成した記録的な売上の90%をモバイルユーザーが占めました。
これまで、実店舗&オンライン併用型の小売店とデジタルファーストの小売店を区別することは簡単でした。しかし今では、買収、提携、イノベーションによって、その境界線はますますあいまいになっています。こうした動きは、店舗での買い物、自宅での買い物、商品の配達など、小売カスタマージャーニーのあらゆる次元に影響を与えています。2018年には、こうした変化のために消費者の買い物習慣が変化して、小売店と消費者の関係が見直されるだけでなく、既存の小売チャネル(モバイルアプリ、ウェブ、実店舗など)の存在意義さえ変化し始めるとApp Annieは予測しています。例えば、中国で見られるように、欧米市場でも、モバイルで購入した商品の受取場所として実店舗が使われるケースが増えるでしょう。また、精算や支払いの処理に長い間使われてきたレジの役割が縮小し、場合によってはモバイルに置き換えられるでしょう。これから数年の間に、信頼、価値、利便性といった最も重要な要素に対する人々の期待が少しずつ高まり、ついには小売の新しいパラダイムが生まれるときが来るものと思われます。購入チャネルにかかわらず、モバイルは今後も、多くの消費者にとってショッピング体験の中心となるでしょう。
配達サービスの浸透で出前サービスが活発化
App Annieが2016年の記事で予測したように、フードデリバリーの分野で業界再編の動きが見られました。GrubhubはEat24の買収を完了し、豊富なブランドポートフォリオをさらに拡充しています。2018年には、出前レストラン(Grubhub、Just Eat、Yogiyoなど)がこの分野で市場を拡大し続けるとApp Annieは予測しています。彼らは、あまり開拓されていない市場に進出し、仲介業者が食事の注文を受け付けるモバイルアプリを使ったことがない消費者の行動を変化させようとするでしょう。
一方、「サービスとしての配達」を手がける企業(UberEATSやDeliverooなど)は、顧客がさらに優れた体験を求めてより多くのお金を費やしたり、自前の配達部門を持たない高級レストランの料理を注文したりする可能性が高いプレミアム市場でシェアを伸ばしていくものと思われます。さらに、ファストフードが、激しさを増すフードデリバリー業者との競争に対処するため、配達アプリとの提携を活発化するでしょう。その一例が、UberEATSとの提携を拡大しているMcDonald'sです。この市場では、動画ストリーミング分野と同じように、サービスの断片化によって顧客が感じている不便さを解消すると同時に、競争の激化によって業者が感じている売上プレッシャーに対処する必要があるため、これから数年の間に業界の再編が起こるでしょう。
新規参入と季節需要で、家庭向け音声エージェントの市場が拡大
家庭向け音声エージェントの市場が生まれたのは、Amazonが第1世代のEchoをリリースした2014年のことでした。しかし、第2世代となるEcho Dotが発売されたことで、この市場は大きくけん引されました。2016年には、ホリデーシーズンの間際に発売されたEcho Dotが、49.99ドルというエントリークラスの価格設定と相まって、驚くほどの販売増を記録しました。さらに、2017年7月12日のプライムデーには、Echoデバイスの大幅な値引きにより、市場は再び大きく盛り上がったのです。
音声対応スピーカーと連携するAmazon Alexaアプリのダウンロード数は、50ドル弱のEcho Dotが発売された2016年10月から上昇傾向になり、ホリデーシーズンとAmazonプライムデーの頃に急増しました。
2018年には、特に季節のイベント(ホリデーシーズンやプライムデーなど)と値引きセールの時期にデバイス販売が伸びるのに伴い、こうした傾向がさらに顕著になるとApp Annieはみています。また、最近発売された49ドルのGoogle Home Miniを始め、AppleやSamsung、それに中国の巨大企業であるAlibabaやBaiduといった新規参入組によって、家庭向け音声エージェントの販売はさらに拡大するでしょう。このような好調な販売を受け、開発者は音声プラットフォームに関心を持ち、テストを始めるようになりました。しかし、2018年の時点では、その用途はまだ限られたままでしょう(音楽の再生、基本的なウェブ検索、実用的な用途など)。ただし、技術に詳しいユーザーが家庭向け音声エージェントの新しい使い方(照明、サーモスタット、AV機器の操作など)を模索するなかで、他のコネクテッドホームデバイスの導入が増えていくとApp Annieは予測しています。
2018年に重大な変化が予想されるファイナンス関連アプリ
欧州でのオープンバンキングの法制化が、バリューチェーンの変化を促進
利便性はアプリ市場の成功の背後にある重要な要因になっていますが、ときにセキュリティに関する懸念という逆風が吹くこともあります。当然ですが、ファイナンスアプリはこの点を克服する必要がありました。これは新しい話ではなく、ファイナンス分野の歴史では、クレジットカードやATMなど、過去のイノベーションでも同じです。
来年は、第2次決済サービス指令(PSD2)が導入される欧州から始まり、このパターンが継続するとApp Annieは予測しています。この指令は、政府の監督と正当性に由来するセキュリティをユーザーに提供する一方で、包括的でアプリ中心のファイナンス関連サービスへの門戸が、より多くの事業者に開くことになります。欧州におけるバンキングのバリューチェーンが解放され、情報集約アプリが消費者向けファイナンスでますます主要なゲートウェイになっていくでしょう。こうした変化による恩恵が実現することで、欧州以外の市場でも同様のイノベーションが進展するとApp Annieは予測します。加えて、従来型のリテールバンクも世界各地でイノベーションを継続するでしょう。例えばWells Fargoは2017年11月、モバイルファーストの銀行預金口座に支出分析を組み合わせたスタンドアロンアプリ、Greenhouseを2018年上半期にリリースすると発表しました。
個人間送金アプリで決済がさらに多様化
Venmoなどの個人間(P2P)送金アプリは、フィンテックアプリ革命の中でもひときわ輝く存在です。P2P送金アプリは現金や小切手に取って代わり、ミレニアル世代を中心とする消費者の支払い方法を一変させました。2018年には、その人気に乗ってサービス範囲を拡大することで、収益機会を増やし、従来型銀行との競争激化に対抗し、ユーザーエンゲージメントの強化を図るとみられます。特に、インスタント銀行振込やサードパーティー決済の成長が、P2P送金アプリの取引量を増加させるでしょう。サードパーティー決済は、小売業者や販売業者が支払いオプションに採用していることが追い風になっています。このようなサービスは、さらなる利便性をもたらすことから、ユーザーには好意的に受け止められています。また、この分野には、メッセージングやソーシャルネットワーキングなど、自社の大きなユーザー基盤に対するサービス、マネタイズ、エンゲージメントの新たな手法を常に模索している他のカテゴリーから、成功企業の参入が増えることが予想されます。なかでもWeChatは、多くのユーザーにとって、中国におけるサービス配信チャンネルの定番であり、様々な目的を実行するための拠点であることから、固有の地位を築いています。
以上は、アプリ市場が近い将来に進化を遂げると予想される分野のごく一部です。アプリ経済は誕生から10年の間に大きく発展しましたが、それでもポテンシャル全体でみれば、ほんの序章にすぎません。アプリに対する期待の高まりによって、開発者によるイノベーションと技術進化はさらに加速するでしょう。他の手段でも実行できる活動をなぞるだけのアプリでは、ユーザーはもはや満足しません。人々はアプリに対して、様々な目的やタスクをこなす方法を根底から一変させ、なおかつ、他のプラットフォームでは実現不可能な、まったく新しい体験を生み出すことを期待するようになっています。アプリ市場の次の10年間で、アプリ開発者が現在できることの境界を越えてそうしたニーズに応えるのを楽しみにしています。
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2017 M12 5
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