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第3回:ヘルスケア・フィットネス〜保険業界のモバイルアプリ市場トレンド

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生命保険やモバイル発の新しい種類の保険にみる、モバイルアプリのトレンドついてご紹介します。

前回まで、日本のアプリ市場で現在展開されているヘルスケア・フィットネス、メディカル関連アプリのランドスケープ、米国を中心としたグローバルのトレンドを確認してきました。第3回は保険業界のモバイルアプリ活用の状況を見ていきます。

●生命保険の新しい稼ぎ柱として期待される健康促進エリア

健康促進型保険という新しい生命保険ジャンルを耳にするようになりました。運動や禁煙など生活習慣や健康状態が改善すると保険料が安くなる仕組みで、生命保険会社が続々と商品を投入しています。中でも注目を集めているのは住友生命がリリースした新商品“住友生命「Vitality」”で、元々は1997年に南アフリカのディスカバリー社が開発して展開した商品で、現在は世界17の国と地域、840万名に広がっています。継続的に健康促進をサポートするために、契約者はモバイルアプリを使って日々の運動記録や獲得したポイント記録を確認でき、獲得したポイントに応じてステータスが判定され、毎年保険料が変動します。また、日々の健康増進活動に応じて利用できる各種特典を設け、楽しみながら健康になるサポートをしています。

生命保険に限らず、契約者向けの場合、企業はアプリ活用に懐疑的になる事が多いのではないでしょうか。新規契約獲得がKPIになりやすく、アプリを使って新規契約が取れるのか?という発想になりがちです。ただ、一方で顧客の満足度や継続契約率の向上(顧客の離反防止)も大事なKPIと言えるでしょう。健康促進型保険ではアプリ活用により顧客満足度や継続利用をサポートできる点が明確にあり、Vitalityは日本の保険業界の中ではいち早く商品性を見据え、モバイルアプリならでの機能を盛り込み取り組んでいる商品といえます。

実際に、Vitalityのアプリパフォーマンスは良い軌跡を辿っています。下図はWAU(週に一度でもアプリを立ち上げた数)の推移で、日々利用する人が着実に増えているのが分かります。

デジタルやアプリの世界では先行者利益という発想がありますが、保険の世界では商品性もあるので、Vitalityがこのまま先行者として逃げ切るかは分かりません。ただ、各社がこの状況を知っているのと、知らないのでは経営・事業戦略としては大きな違いが出てくるのではないでしょうか。住友生命以外にも、第一生命が一般の人向けと契約者向けに様々な健康増進機能をもつ「健康第一」というアプリをリリースし、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命が「リンククロス」というシリーズにて、健康促進に関わるニュースや機能をもつアプリをリリースしています。

●ポジショニング整理から、方向性の検討を

ヘルスケア・フィットネス関連と生命保険が急接近する中で、どのようなアプリが現在あるのか整理するところから始める事が第一になります。例えば、下図のように整理してみると、自分自身のデバイスには入っていなくても、世間には以外に多くの健康促進系のアプリが存在する事が分かります。

 

そして、整理したあとは、各アプリが実際にどの程度の認知を獲得しダウンロードされているのか、実際に毎週、毎月のように使われて続けているのかを確認していきます。ここでは、日本のヘルスケア・フィットネスのアプリのみでまとめていますが、第二回記事で記載の通り、世界ではどのようなアプリが人気なのかも合わせて確認する事で、より新しい視座を客観的で定量的なデータを元に整理する事ができるでしょう。既存商品を担当する立場であれば、新規契約獲得もしくは契約者向けのリレーションとしてどのようなアプリ活用が自社には合っているのか、新規サービスを検討する立場であれば、ヘルスケア・フィットネスに限らず、違う国もしくは違うカテゴリ(SNSやエンタメなど)を見渡していく事で、アプローチするアイデアの種を見つける事が出来るかもしれません。

●モバイルファーストの全く新しい保険の登場

生命保険に限らず、保険の世界ではここ数年でモバイル発の取り組みが出てきています。米国発の損害保険分野のスタートアップ「Lemonade」がソフトバンクなどから1億2000万ドルの出資を受けた事で有名ですが、Lemonadeは書類手続きや請求プロセスを迅速化するためにチャットボットと機械学習を利用する人工知能をベースに、住宅所有者や賃貸人向けのP2P保険を提供しています。2018年に入り米国におけるダウンロード数が着実に増えている事がApp Annieデータでは読み取れます。

自動車保険のスタートアップ「Root Car Insurance」は複数VCより1億ドルの資金調達を行い、既存市場から顧客獲得を行い始めています。Rootアプリは今の米国にとっては新しいコンセプトではありませんがが、ユーザーの走行記録や運転マナーなどに基づき保険料を決めるサービスです。ユーザーはRootアプリをダウンロードし、2〜3週間のテストドライブを行い格付けされます。優良ドライバーは通常の保険会社と比べて52%も保険料を抑える事ができるそうです。保険料の支払いや証券管理もRootアプリを通して行う事ができます。

App Annieのデータを見てみると、ダウンロード数の勢いは2018年の春先から加速し、2018年9月時点で他の損保企業アプリの月間ダウンロード数に匹敵する状況になっています。

Rootアプリは冒頭でご紹介した住友生命「Vitality」と同様に「頑張った分だけ保険料が安くなる」というコンセプトは同じです。一方で「Lemonade」と同様に、新規ユーザーはモバイルアプリが入口になりチャットボットに答えながら適切なプランを契約していく(新規顧客獲得の窓口)という点も見えます。このように人工知能や機械学習をベースにユーザーとのやり取り(チャットボット)から始まり、ユーザー行動の学習を行い、適切なプラン、サービス、または情報などの提供、そして結果的にユーザーはメリットを享受していると思うアプローチは現在のヘルスケアや保険業界のモバイルアプリにみるトレンドと言えるのではないでしょうか。

以上、第一回から第三回までヘルスケア・フィットネスアプリのランドスケープを確認し、米国を始めとしたグローバルとの比較、そして保険業界の動きをモバイルアプリの観点から見てきました。App Annieでは世界中のモバイルアプリ市場のデータをトラッキングし、事業戦略やマーケティング活動に役立てる情報しております。ご関心のある方はお問い合わせください。

 

第1回記事「注目が集まる健康促進と日本のモバイルアプリ市場のトレンド」はこちら

第2回記事「グローバルの視点から、健康促進とモバイルアプリのトレンド」はこちら

 

2018 M12 27

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