銀行とフィンテック分野の新興企業が世界のマーケットシェアを奪い合っています。その戦いを複雑にしているのが、各国の文化的な嗜好の違いです。
リテールバンキングに革命が起きています。Citiの調査では、モバイルバンキング利用者の91%が、銀行の支店に出向くよりバンキングアプリを利用するのを好むことが判明しました。Bank of Americaは、顧客の取引の98%以上がオンラインまたは電子取引で行われていると推定しています。
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このようなモバイルへの移行は、ATMがここ数十年で最大の技術革新とみられていた銀行業界に創造的破壊をもたらしました。しかし銀行はその一方で、新たに台頭したフィンテック企業、すなわち仮想通貨や融資スタートアップ、個人間送金プラットフォームなどとの競合を迫られています。そして、この勢力図をさらに複雑にしているのが、金融系のモバイルアプリがそれぞれの国でどのように取り入れられ、利用されるかという文化的な要素です。お金のやりとりに関しては、ほとんどの国がバンキングをどのように行うかということにそれぞれ固有の嗜好をもっているのです。
App Annieのレポート『モバイル市場年鑑 2019』において、英国のユーザーはバンキングアプリを週7回以上チェックすることが明らかになり、ロンドンおよび英国をフィンテックの中心地とする見解が裏付けられました。英国に続いて利用頻度が高いのが、ブラジル、カナダ、フランス、韓国です。しかし、完全に成熟したモバイル市場である日本は、エンゲージメントが英国の3分の1程度です。これはおそらく文化的な要素あるいは政府の規制によるもので、例えば、日本のバンキングアプリの多くは個人間送金ではなく、電信送金を提供しているといった点が挙げられます。一方、メインのバンキングアプリを使った個人間送金が普及しているオーストラリアでは、ユーザーがバンキングアプリをチェックする回数は週に平均10回近くにのぼります。
フィンテック企業はまた、スマートフォンユーザーの生活に新たな役割を構築しました。個人間送金アプリ(Venmo、Paypal、SquareのCash App)、融資アプリ(Lending Club Invest)、さらには投資アプリ(Robinhood、Acorns)が台頭し、従来型の大手銀行の世界シェアを脅かしています。Accentureの調査では、これらの新規参入企業はすでに、全世界で新たに生み出される収益の3分の1を占めていることが明らかになっています。
従来型銀行にとっての明るい材料は、モバイルへの投資が滅多にないウィンウィンの効果をもたらすことです。優れたモバイルアプリは顧客との接点を増やすと同時に、実店舗に従業員を配置する必要性を減らします。実際、PwCによると、モバイルはバンキングの取引チャネルの中で最も低コストです。支点での対面取引で銀行にかかる平均コストは4ドルなのに対し、モバイル取引の平均コストはわずか10セントと、経費節減の効果が98%増大します。
また、特にサイバー攻撃の危険が高まっている昨今では、大手銀行が消費者から親しまれ、信頼されている点も長期的に見て有利な可能性があります。米国の従来型銀行が、PayPalやVenmoなどの脅威に対抗する目新しいアプローチとして打ち出したのが、銀行独自のモバイル個人間送金サービスZelleをローンチすることでした。Zelleは、Chase、Wells Fargo、Bank of America、Citiなど(普段は競合している)大手銀行が提携するサービスで、その魅力の1つは、スタンドアロンのアプリとして使えるだけでなく、各銀行の通常のアプリ内にも機能が組み込まれている点です。既存のバンキングアプリに統合されることで、大規模な既存のユーザー基盤へのアクセスを獲得しているわけです。
総じて、ファイナンスアプリは世界的に力強い成長をみせています。全世界ダウンロード数は2016年から75%増となり、2018年現在で34億回に達しています。2019年も、従来型銀行とスタートアップの戦いはますます激化し、個人間送金、融資、POS、投資といった分野でマーケットシェアの奪い合いがみられるでしょう。誰が戦いの勝者になるのかはまだわかりません。しかし1つだけはっきりしているのは、モバイルを制した者が、戦いを制するということです。
バンキングと金融についてのより詳細なインサイトについては、「モバイル市場年鑑 2019 レポート:バンキングと金融編」をダウンロードしてお読みください。
2019 M03 11
Market Data