2019年も終わりに差し掛かっていますが、2020年は2019年に増してモバイル市場が成長するでしょう。2020年に向けてモバイルで成功するための5つのトレンドをご紹介します。
2019年はモバイルにとって画期的な年でした。2019年第1~第3四半期の消費支出は対前年同期比で20%増。特に第3四半期は、iOS App StoreとGoogle Playの合計額が新記録となる230億ドルに達しました。2020年には成長がさらに拡大し、iOSとGoogle Playを合計した世界の消費支出(サードパーティーのAndroidストアを除く)は1,050億ドルに達すると予測されます。この成長を大きく牽引するのがサブスクリプションサービスで、「ゲーム」はそうしたマネタイズのトレンドを利用する最新のカテゴリーになるでしょう。アプリストアを除くと、モバイル広告支出が市場に占める割合はさらに増し、世界のモバイル広告は2019年の1,900億ドルから2020年には2,400億ドルに達すると予測されます。今日のモバイルファーストの世界を利用し、ビジネスの優位性を保つために、2020年に向けて押さえておくべきモバイルの重要トレンドをApp Annieが5つまとめました。
1. ストリーミング戦争は2020年に激化。消費者はモバイルで6,740億時間を消費する見込み
2020年、世界のAndroidフォンユーザーは「エンタメ」および「動画プレーヤー&エディタ」カテゴリーで6,740億時間を過ごすとApp Annieは予測します。2019年の推計は5,580億時間で、そこから大きく伸びるでしょう。YouTubeやNetflixのような人気を確立した動画プレーヤーがAndroidフォンの利用時間の大部分を占める一方、比較的新しいアプリもこの拡大するパイの一切れを手にしようと懸命です。
11月に米国でスタートしたDisney+は、すでに競合ひしめく分野に資金力のあるライバルが参入する一例です。月額利用料が7ドルで、4人が別番組を同時視聴できるDisney+は、すでにHuluとESPNを擁するDisneyのストリーミングサービスの大きな新戦力になるでしょう。Disney+のコンテンツ数は映画が500本、テレビ番組エピソードが7,000本と比較的少ないものの、『ザ・シンプソンズ』や『スター・ウォーズ』、「マーベル・シネマティック・ユニバース」作品群を含め、長年のファンが好む人気タイトルを視聴できるのが強みです。さらにDisneyは、人気の知的財産(IP)を利用して新たなオリジナルコンテンツを生み出すことに資金を投じ、『スター・ウォーズ』の世界観に基づくドラマシリーズ『The Mandalorian』を製作しています。強力なIPは消費者の興奮を生むことができます。その典型的な例として、2019年9月にローンチされて大ヒットしたマリオカート ツアーが挙げられます。
強力なIPを擁するとはいえ、Disney+は――Apple TV+、HBO Max(AT&T)、Peacock(Comcast)などの競合アプリも同様に――、視聴習慣を育てるのに望ましい革新的なシリーズを確立する必要があるでしょう。それを実現する可能性があるのはオリジナルのシリーズや革新的なコンテンツ形式で、具体例はNetflixの『ブラック・ミラー: バンダースナッチ』です。DisneyとVerizonが実施したようなパートナーシップを通じたサービスの連携は、 競争の勝敗を決する消費習慣を確立するのに役立つでしょう。
ソーシャルメディアとの競争もあります。ソーシャルメディアは、Z世代が暇をつぶしたり、面白いコンテンツを探したりする場所です。TikTok、Snapchat、Instagramのようなソーシャルアプリは、ソーシャルメディアとエンターテイメントの境界をあいまいにし、消費者の時間をめぐる競争の激化をもたらしています。ビデオゲームのライブストリーミングプラットフォームから出発したTwitchは、異なるコンテンツ形式に手を広げました。ゲームをせずに他のオーディエンスとやり取りするストリーム配信者のチャンネルを集めた「Just Chatting(雑談)」カテゴリーは、Twitchにおける2019年上半期の総視聴時間で第3位になりました。
短期的には、新たなストリーミングサービスは試用する消費者を呼び込むことで、ダウンロード数、利用時間、売上の伸びを牽引するとApp Annieは予測しています。さらには、新たなパートナーシップが実現してサブスクリプションの新たな連携が登場するとみています。ストリーミングサービスはこの分野で競争力を保つため、長期的な脅威となる真のライバルと、広告予算を浪費するだけの存在を見分ける必要があるでしょう。App Annieがパブリッシャーに推奨しているのは、競合アプリのリテンション率、利用時間、アクティブユーザー数の追跡です。それにより、競合アプリのサービスが人気を博しているかどうかについてより深いインサイトが得られます。
2. Apple ArcadeとGoogle Play Passが消費者に革新的なゲームを、パブリッシャーに新たな収益源をもたらす
ゲームパブリッシャーは一般にモバイルのあらゆる局面でアーリーアダプターであり、いち早く導入した新しい機能やマネタイズモデルが他のジャンルに広がりました。ただし、サブスクリプションについては逆の流れになっています。世界のゲーム市場におけるゲーム売上総額のうち、モバイルでの支出が50%を超えたことで、今後のサブスクリプションはエンゲージメントの深化と顧客生涯価値(LTV)の増加を促進するでしょう。こうした傾向はモバイルのどの分野にもみられます。実際、2018年10月~2019年9月の米国における消費支出(iOS App StoreとGoogle Playの合計)で非ゲーム系アプリ上位100位のうち95%以上が、アプリ内課金を介するサブスクリプションサービスを提供していました。加えて、ゲームの世界消費支出は2020年に750億ドルを超えると予想されます。
サブスクリプションサービスは、一定の料金を支払うことで多種多様なコンテンツやサービスを利用できるため、Z世代の消費者から特に好まれています。サブスクリプションサービスはまた、アプリ内課金やアプリ内広告のマネタイズモデルでうまくいかなかったゲームにチャンスを提供するでしょう。Apple Arcadeが提供するサブスクリプションでは、独占的なゲームのコレクションを定額で楽しめます。一方のGoogle Play Passは、Google Playでも利用できるゲームのサブスクリプションを提供します。Apple Arcadeのサブスクリプションは、開発元がアプリ内課金(IAP)を組み込むという制約を受けずに、ゲームの新しい仕組みを自由に設計できることを意味します。Google Play Passのサブスクリプションは既存のゲームに、従来のアプリ内課金やアプリ内広告のほかに新たな収益源を得ることで盛返すチャンスをもたらします。
いずれのサービスも、家族での利用に適しています。定額の利用料にすべてが含まれる管理された環境は、子供が求めるアプリ内課金の額を減らしたい親にとって魅力的でしょう。ファミリー層のほかに、ゲーマーを自認する層にも、優れた設計の革新的なゲームを定額で継続的にプレイできる点が評価される可能性があります。
Apple ArcadeとGoogle Play Passはいずれも、既存のアプリストアモデルを補完する重要な存在になるでしょう。開始直後の成績がどうあれ、これらのサブスクリプションサービスは長期のモバイルゲーム戦略において重要な役割を担い、拡大するモバイルゲームエコシステムを一層強化する機会をもたらします。ただし、モバイルゲームはすべて無料でダウンロードできて当たり前と思う層を考え直させることは困難でしょう。そうした固定観念に対抗するには、パブリッシャーがiOS App StoreやGoogle Playと連携して、ゲームサブスクリプションサービスの価値を伝えていく必要があります。
3. 5Gが次の戦場に。最初に恩恵を受けるのはゲーマー
5Gをめぐる話題はこれまで主に通信速度が中心でしたが、低遅延性もゲーマーとパブリッシャーを興奮させています。高速な無線接続に依存するモバイルマルチプレイヤー型のコアゲームには需要があります。2019年10月のゲーム世界ダウンロード数ランキング(iOSとGoogle Playの合計)で、リリースから1カ月目のCall of Duty: Mobileが首位に立ち、一方でローンチから1年以上過ぎたPUBG MOBILEとFree Fireもそれぞれ5位と6位を保ちました。同月のダウンロード数上位10ゲームをユーザーあたりの平均利用時間で比較すると、先述のマルチプレイヤー型コアゲーム3本がトップ3を独占しました。5Gはまだ黎明期ですが、通信会社が2020年に提供エリアを拡大するなか、ゲームは市場の妥当性を検証する最初のテスト材料になる可能性が高いでしょう。
5Gを活用することに関して、ゲームがフロントランナーになりそうだとはいえ、ほかにも可能性はあります。Ericsson Mobilityによる2019年のレポートは、2024年までに全世界のモバイルトラフィックの34%を5Gが占め、5Gの提供エリアは世界人口の64%をカバーすると予測しました。より高速な5Gネットワークと5G対応デバイスの利用が増えるに従い、既存のモバイルサービスが合理化され、日常生活におけるモバイルの存在は一層確かなものになるでしょう。
5Gの真の可能性を最初に享受するのは、モバイル経済のアーリーアダプターであるゲームパブリッシャーとゲーマーになるものの、その後は農業、自立運転車とコネクテッドデバイスの開発を通じたロジスティクス、モノのインターネット(IoT)といった業界で応用が広がるとApp Annieは予測しています。パブリッシャーが今確かめておくべきなのは、自社アプリの将来のバージョンがより高速な5G接続の利点を活かせることと、複数の競合アプリが実施している同内容のバージョンアップデートを調査することです。
4. オートバトルゲームは次の成長株
オートバトルはDota(Defense of the Ancients)の改変版として誕生し、Steamの登場で人気が急上昇しました。2019年11月の時点で、Dota Underlords(Valve)、Auto Chess:Origin(Dragonest Game/Drodo)、Chess Rush(Tencent)など、ゲーム開発大手数社からリリースされたモバイル版が多数存在します。オートバトルのジャンルは、ゲーム形式が単純で、マウスとキーボードの正確さを必要としないため、モバイルに向いています。とはいえ、体験の最適化をさらに進め、より広いプレイヤー層を魅了するジャンルに育てる余地はあるでしょう。
同ジャンルはすでに、初のAuto Chess Invitationalが賞金総額100万ドルを用意したことでeスポーツファンの関心を集めました。こうした人気の高まりが、モバイルでのオートバトルの普及を支え、モバイルユーザー1人あたりのプレイ時間の増加につながるでしょう。2019年1月に生まれたばかりのジャンルであることを考えると、これは目覚ましい状況と言えます。
ゲーム開発企業のKingがApp Annieのインタビューで述べたように、プレイヤーはジャンルを超えて多様な仕組みと設計要素を取り込むハイブリッドなゲームを積極的に試します。App Annieのアプリ重複利用データ は、Kingがそうした機会を見極めるのに役立ちました。2020年には、オートバトルのジャンルがモバイルに一層最適化されると予測されます。オートバトルの台頭に関して留意すべき事実は、人気ゲームが複数ジャンルから仕組みを取り込む動きを強めていることです。パブリッシャーが発展するためには、アプリストアの既存のゲーム分類の先を見据え、データを活用して、消費者の心をつかむ新しいゲームを開発する必要があります。
5. PWAがコンシューマージャーニーの重要な接点に
PWA(プログレッシブウェブアプリ)は、アプリのような見た目と使用感を実現するモバイルウェブサイトであり、ユーザーにアプリのダウンロードという余計な手間を取らせることなく、スムーズな体験をもたらします。PWAはユーザー体験をシンプルにすることにより、コンバージョンの増加に役立ちます。このことが特に重要なのは、ユーザーがモバイルウェブサイトより少ないフリクション(摩擦)でアプリの機能限定版を試用できるようになるからです。速度の点でもメリットがあります。PWAはウェブサイトより読み込み時間が短縮されます。こうした特徴は、ネットワークの状況が劣悪な場所や、アプリの軽量版がフル機能版と同程度に普及している発展途上の市場で、特に貴重です。インドを例に挙げると、2019年上半期におけるFacebookのダウンロード数のうち、90%近くをFacebook Liteが占めました。
PWAは、フル機能を活用するためにサインインを求めるアプリ(例:バンキングや通信)の場合、あまりメリットが見込めないのが一般的です。一方で、旅行、小売、ニュースなど、ユーザーがまず使用感を試してから本格的な利用に移行するような分野では、貴重な選択肢になるでしょう。PWAで成功した一例であるホテル予約アプリのTrivagoは、PWAを使った人のエンゲージメントを対モバイルサイト比で150%伸ばしました。
PWAはモバイルウェブとアプリの体験の橋渡し役になります。自社アプリをダウンロードするようユーザーをコンバートすることは、最適な消費者体験とリテンションを確保するうえで依然として重要ですが、ユーザーとブランドとの最初の出会いは別の場所で起きる可能性が高いでしょう。加えて、PWAの提供と機能は、アプリストアとブラウザ機能のガイドラインに従う必要があります。これは、モバイルにおいてネイティブアプリが今も第一であることを意味します。
各段階でシームレスなユーザー体験を提供し、モバイルウェブとアプリ戦略をつなぐ橋の役割を担うことにより、PWAはファネルの最上部を広げるとともに、消費者が自社アプリに向かう途中で脱落するのを防ぐ助けになるでしょう。ブランド各社――特にニュース、小売、旅行など、ネットワーク状況が悪い環境で速い読み込みと利用可能なことが重要になる部門――は、顧客獲得ファネルにPWAを加えることを検討すべきです。
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2019 M12 20
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