モバイルは、今や世界的にも主要なゲームプラットフォームです。開発者に大きな機会をもたらしていますが、それだけ競争も熾烈です。100万本を超える選択肢の中で自社のゲームを際立たせることは、ゲームデザイナーにとってますます大きな課題となっています。
市場全体を把握すること、中でもプレイヤーの好みを把握することがゲーム会社の強みになることを、App Annieはいくども目にしてきました。データをあらゆる面で効果的に利用することは、ゲーム業界を牽引する企業なら必ず実践しています。
「Kingは、入手可能なデータを最大限に活用することに力を入れています。新作ゲームを開発する際にはデータ主導というよりはデータを根拠とする手法を用い、決してクリエイティビティを犠牲にはしません」
- イシャイ・スマジャ、King Experimentation部門プロダクトマネージャー
そこでApp Annieは、KingのExperimentation部門でプロダクトマネージャーを務めるイシャイ・スマジャ氏にインタビューを敢行しました。データを利用してモバイルゲーム業界を牽引することに関して、Kingは間違いなく秀でた存在です。
スマジャ氏は先ごろ公開した記事の中で、親和性のデータを基に、異なるゲームのオーディエンス間の関連性をモデル化するネットワーク解析方法を紹介しました。Kingはこのモデルを使ってプレイヤーの好みをより詳しく把握し、新作ゲームの開発の参考にしています。
モバイルゲーム市場の概観、オーディエンスの規模と関連性
App Annieのデータを基に作成、2018年8月、米国iOS
スマジャ氏の分析に関する詳細はMediumの記事 をご覧ください
App Annieはスマジャ氏に、モデルの作成過程と、それがKingにもたらしている効果について、また、プレイヤーの好みを決定する要素について知るために同氏が引き続き取り組んでいることについて話を聞きました。
このモデルを作成しようと考えた理由は?
主な理由は、チームがゲームの新たなアイデアを得るのに役立てたかったからです
1つのジャンルに属するゲームが、必ずしもプレイヤーのすべてのニーズを満たしているわけではありません。例えば、ユーザーはパズルゲームにもっと深いストーリーを求めているかもしれないですし、レースゲームにもっと「達成感」(目標や成果)を求めているかもしれません。そしてそれらのニーズは、同じプレイヤーが遊ぶ他のゲームによって満たされている可能性もあるのです。
このことは、ハイブリッド型ゲームの開発にチャンスが存在する可能性を示しています。つまり、複数ジャンルのゲームプレイやデザイン要素を組み合わせたゲームです。しかし、成功するハイブリッドゲームを開発するには、プレイヤーの好みを把握して、他ジャンルのどの機能が本当にプレイヤー体験を向上させるかを見きわめることが重要です。
App Annieの親和性のデータを用いると、このようなユーザーの好みの重複について理解を深めることができます。このデータから、2つのゲーム間のオーディエンスの重複が、市場全体の平均値を上回る重複を示しているケースを見つけることができました。2つの異なるジャンルのゲーム間でオーディエンスの重複率が高い傾向にあるのは、この2つのジャンルが提供する機能をプレイヤーが求めていることを示すものだと私たちは考えました。
ですが、多くのゲーム間の親和性について、頭の中でマップを作成するのはとても大変な作業です。すべての情報を記憶しておくのは難しいですからね。そこで私たちは実際にマップを作成することにしました。
利用したデータセット、手法、ソフトウェアは?
このモデルでは主にApp Annie『Intelligence』のデータを利用し、月間アクティブユーザーやアプリの重複利用(オーディエンスの重複)などの指標を組み合わせて、自社のポートフォリオにはないゲームまで含めたゲーム市場の全体像をつかみました。
また、各ゲームを実際に類似したゲームプレイ(パズルゲームなど)によって分類する作業も重要でした。ストアが割り当てるサブカテゴリーは、実際のゲームプレイを反映していない場合がありますから。この作業はKingのチームが実施しました。
続いて、各ジャンルのゲーム間の関連性をモデル化するのですが、これにはGephiというオープンソースのネットワーク解析ツールを利用しました。そして最後に、JavaScriptアプリのSigmaを使って解析結果をインタラクティブな視覚化データに変換し、Kingの他のチームが利用できる形にしました。その成果が、私の先日の記事で紹介したチャートです。
モデルの効果は?King内でどのように利用されていますか?
「スマジャ氏のモデルは、モバイルにおけるプレイヤーのモチベーションを把握するための、完全に独自の手法となっています。このモデルを手がかりに、ゲーム開発チームはプレイヤー体験の核心にまっすぐ到達することができます」
- ビル・ムーニー、Kingクリエイティブ部門バイスプレジデント
出来上がったモデルは、プロトタイピングチームが、新しいタイプのゲームや、既存プレイヤーが好みそうな新しいゲームプレイのヒントを得るのによく利用されています。
そのほか当社では過去のデータを利用して、モバイルゲーム市場で起こった大きな出来事が広くゲーム市場に与えた影響を調べています。これは今後の市場の変化を見据えた計画立案に役立ちます。
また、このモデルはパフォーマンスマーケティングのチームにも利用されています。広告のROIを最大化するのに、このモデルが役立つか試しているところです。通常Kingのゲームに関連づけられることはないものの、互いのプレイヤー基盤の親和性が高いジャンルを広告のターゲットにすることで、見込みの高いオーディエンスに確実にリーチすることが可能になります。
データ利用に関して、広くゲーム業界全体が見落としているポイントは?
開発者は、自社のプレイヤーが本当に好んでいるものを把握することにデータを利用すべきです。われわれゲームデザイナー(おおむね似通った傾向の集団)の好みは、広くゲーム市場全体の好みと同じだとつい考えてしまいがちですが、多くの場合そうではありません。
業界はこれまで、ゲームの訴求力を意図的に拡大する取り組みを行ってきましたが、その取り組みは多くの場合、オーディエンス属性を考慮することに限られています。例えば、「このゲームは16~24歳の年齢層の男性向けだ」とか、「このゲームは45歳以上の女性向け」といった具合に。ですが私の経験上、属性はプレイヤーの好みを予測する手がかりとして、期待するほど優れたものではありません。
プレイヤーの好みには、実に多種多様な組み合わせが存在します。それは異なるゲームプレイやアートスタイル、プレイの時間帯などで構成され、多くの場合、特定の属性集団とは合致しません。
しかし今では、実に多くのデータが入手できます。ゲームデザイナーはこのデータを利用して様々なプレイヤーのニーズについて理解を深め、それらのニーズにより合致したゲームを開発することが可能です。Kingは、入手可能なデータを最大限に利用することに力を入れています。新作ゲームを開発する際にはデータ主導というよりはデータを根拠とする手法を用い、決してクリエイティビティを犠牲にはしません。
これからの展望は?
KingのExperimentation部門は、イノベーションについて考察し、常識を打ち破り、新たな機会を見いだすことが仕事です。今回作成したモデルは、異なるジャンルのゲーム間の関連性を見いだすことに成功しましたが、それらの関連性の理由までは明らかにできていません。
そこで私たちは引き続き、様々なジャンルのプレイヤーのゲームプレイに関する好みを決定するためのより定性的な要素と、それらが当該ジャンル内の既存ゲームによってどの程度満たされているかについての研究を進めています。このような研究は、具体的にどのスタイルのゲームプレイが、一部のジャンル間に高いオーディエンス重複率をもたらしているのかを理解するのに役立ちます。
その結果、自社プレイヤーと類似したニーズを満たす可能性のある他のジャンルを特定したり、自社プレイヤーのニーズが十分に満たされていない分野を見つけたり、あるいは、他ジャンルのゲームプレイを導入することでプレイヤー体験が向上する可能性のある部分をを明らかにしたりすることが可能になります。
より長期的には、単にゲームプレイにのみ注目するのでなく、アートデザインやその他の機能がプレイヤーの好みにどのように影響するのかを明らかにしたいと考えています。
スマジャ氏がどのようにデータを利用してゲーム市場への理解を深めているか、より詳しく知りたい方は、スマジャ氏のMediumをフォローしてください。モバイル市場に関する各種データをご覧になりたい方は、こちらからApp Annieの無料製品にご登録ください。